ちょっと以前の話。
かつての教え子の柔道整復師から連絡があった。
柔道整復師の就職ポータルサイトで紹介してもらった就職先が「どうもおかしい」という。
話を聞いてみると、そこの整骨院は院長一人の院。卒業生はそこで施術管理者として採用されたのだが院長は柔道整復師の資格を持っていないらしい。
「これって免許貸しみたいなことになってるのと違いますか?」というのが相談の内容。
整骨院に必要なスタッフは三種類ある。
まずは①開設者。
院の責任者にあたり開設届などの届出は開設者の氏名で行う。
それから②業務に従事する柔道整復師。
そうして③施術管理者、俗にいう管理柔道整復師である。
療養費(健康保険)を請求する際の責任者となる。
療養費の受領委任の申請を行う(健康保険を取り扱う)柔道整復師の施術所には①②③が必ず必要である。
ただし、①②③は一人の人間が兼任することが可能である。
例えば筆者の施術所では(療養費の請求は行っていないが)筆者が開設者であり、業務に従事する柔道整復師であり、施術管理者である。
それから、よく誤解されるのだけれど開設者は柔道整復師である必要はない。
そう、誰だっていいのである。
現に「空き店舗に整骨院を開設しませんか」、というビジネスを展開している業者が存在するらしいし、副業として整骨院を開設している芸能人がいるという。
だから今回相談を受けたケースでも「柔道整復師の資格を持たない人間が施術所を開設、柔道整復師を雇用して施術を行わせ、その柔道整復師が施術管理者として療養費を請求」であるのならば免許貸しでも何でもない。
普通の営業形態である。
ただし、たとえば開設者がはり師とかきゅう師、あん摩マッサージ指圧師などの資格を持っていたり、あるいは自称トレーナーとか整体師とかで施術所内で施術行為を行っていると話は違ってくる。
そもそも柔道整復の施術所内で柔道整復師の資格を持たない者が施術を行うことはできないのであるが、これについては稿を改める。
柔道整復師の資格を持たない開設者が施術を行って、それを管理柔道整復師の名義を使って療養費請求しているのであれば、これは明らかな不正行為である。
療養費は柔道整復師の施術に対してしか発生しないから、柔道整復師以外の有資格者や無資格者の施術を使って療養費を請求するということはあり得ない話である。
これは柔道整復師の勤務実態があろうとなかろうと同じ。
柔道整復師が施術した事実がないものを柔道整復師の施術と偽って療養費請求をしたことには変わりはないのである。
これには「振替請求」という名前がついていて、つまりはそれだけ盛んに?行われているのだろう。
「免許貸し」というのはおそらくは勤務実態がないものを指すのだろうけど、不正の内容としては同じことである。
今回相談を受けたケースでは開設者は「院長」を自称していたそうだからおそらくは振替請求のために柔道整復師を雇用したケースであると考えられる。
筆者のところに相談してきた卒業生には以上のようなことを説明して退職を勧めた。
紹介してくれた就職ポータルサイトの人間は退職理由が理解できないようだった、という話を聞いて思ったのだけど、おそらく業界の人々の多くが今回相談のケースを不正と認識できていないのではないか。
「業界の常識は世間の非常識、世間の常識は業界の驚愕」という某請求団体代表の言葉は案外真実なのかもしれない。
関係法規Masters担当 金谷康弘
柔道整復師、かなや整骨院院長
専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。
柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。
医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。
柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる
現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。