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「匠の技」は伝承されない

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最近は新聞を読まないのだけれど、先日実家に行った時に母が「こんなん載ってたで」といって見せてくれた記事が「柔道整復術 危機乗り越え100年」(産経新聞平成31年3月18日)

柔道整復術が公認されて100年の節目に、日本柔道整復師会が行っている取り組みの紹介がされている。

「平成に入ると(元号ね、学校のことじゃないですよ)規制緩和に伴って開業する柔道整復師が急増、技術の低下が目立つようになり、利益重視の考えから、あまり必要でない施術で治療費を請求するようなケースが増えてきたという。」


「強い危機感を抱いた日整は平成25年に就任したK会長のもと、整復師の資質向上を目指した業界の改革に乗り出した。(中略)
K会長は「平成に入っていろいろな問題があり、昔ながらの技術を施せなくなった整復師が増えた。匠の技を復活させていきたい。」と訴えた。」

それで「改革」の実例として開業(正確には管理柔道整復師になるための)要件としての実務経験の義務化や専門学校のカリキュラムの改正などがあげられている。

そして、4月の新年度からは公認100周年記念事業として「匠の技 伝承プロジェクト」がスタートする。

公社)日本柔道整復師会HP

「骨折・脱臼の整復・固定という柔道整復師の最も大切な技術を後世に伝えるもの」であり、「レジェンドと呼ばれる,優れた技術を持った整復師が講師となり、現役の整復師に匠の技を受け継いでもらう」んだってさ。

他所の団体のやろうとすることにケチをつけるみたいで恐縮なんだけど、「骨折・脱臼の整復固定」を「柔道整復師の最も大切な技術」と言ってる段階でこのプロジェクトは終わっている。

そもそも現在柔道整復師の置かれている危機的?状況は、柔道整復師の技術の低下が原因ではない。

記事にはうまいことごまかして書かれてはいるのだけれど「あまり必要ではない施術で治療費を請求する」というのは外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷でないものを外傷と偽って療養費(健康保険)を不正請求することである。

本当に外傷に施術を行っていたのであれば、それこそ匠の技を行おうとちんたら患部を揉もうと、療養費は当たり前に支給される。

柔道整復師の技術レベルが低下している、というのが骨折脱臼に対応できていないということであればそれは今に始まったことではない。

筆者が開業した平成の初めごろでも施術所に骨折脱臼の患者さんが来院することはごくごく稀であったし、療養費の取扱件数の中に占める骨折や脱臼の割合は1パーセントを切って久しいのである。

「匠の技」を記録して保存することには一人の柔道整復師として賛成する。かつての勤務校の校友会に大先輩をお招きして包帯法の勉強会をお願いしたことがあるのだけれど、それこそ惚れ惚れするような手技であった。

「かつて柔道整復師が骨折や脱臼に施術を行っていた時代の記録」としてそういった技術を映像や書籍として保存することは意味のあることであるし、先人の技術が失伝することはいかにも惜しい。

そういった意味で匠の技を習得することも意味のあることであろう。

ただ、現在の柔道整復師がもしそれらの技術をマスターできたとして、それで柔道整復師の技術が現在より向上する可能性は皆無である。

理由は先にあげた通り、現在柔道整復師が臨床で取り扱う骨折・脱臼の症例が限りなくゼロに近づいていること。

臨床で使われる可能性の低い技法をいくらマスターしてもそれで柔道整復師の臨床能力が向上するとは到底思えない。

骨折脱臼の患部の整復固定ができる(畳の上の水練的なものであっても)柔道整復師が増加したとして「それなら骨折した時は整骨院に行って診てもらおう」と考える患者さんがどれだけいるだろうか。

柔道整復師が骨折・脱臼の患部を整復固定することは法的には「応急手当」なのだけれど、医師の診察(画像診断を含む)を受けることなく整復固定を行うリスクが高すぎる。

筆者は柔道整復師であるから画像診断なしに無麻酔下で骨折脱臼の整復を行う、と聞けば「すごいな」と感心するのだけれど、患者さんにしてみれば迷惑でしかないだろう。

しかも応急手当の後で医師に診察を受けて同意をもらわなければ柔道整復師は引き続き施術を行うことはできないわけで、それなら初めから整形外科に行くわ、と筆者が患者さんなら間違いなく考える。

少なくともしょぼい検査で痛みを伴う整復を行う必然性(そんなものがあれば、だけれど)をちゃんと説明できない限り柔道整復師による応急手当は必然性を持たないだろう。

繰り返しになるが柔道整復師が骨折・脱臼の患部を整復固定することのメリットはあくまでも柔道整復師のためであり、医師による診察の前に「応急手当」という形で柔道整復師が割り込むことが果たして患者さんにとって有益なのかということはもっと議論されてもいいと考える。

それからおそらく「匠の技」というのは柔道整復師が普通に骨折脱臼の患部に施術をしていた時代のもののはずで、それを現在に引き継ごうという発想は日進月歩の医療技術を考慮に入れていない。

たとえば筆者が専門学校に在学中には大腿骨頸部骨折に対するホイットマンの外転整復法なんてのがカリキュラムに含まれていた。

その当時は実際にそれで整復固定を行ったことのある柔道整復師が存在していたわけでその限りにおいて臨床的にも価値のある手技だったのだろう。

でも現在では観血療法が大腿骨頸部骨折治療の第一選択肢であり、保存療法のための徒手整復法を学ぶことには医学史?的な意味しかない。

肩関節脱臼に対するコッヘル法やヒポクラテス法なども「骨折を起こしやすい」ということで現在ではミルヒ法が推奨されている(らしい)。

と、そんなわけで「匠の技」をせっかく披露してもらってもそれは残念ながら柔道整復師の臨床力の向上にはつながらない。

日整の会員諸氏や一般の柔道整復師が危機感を抱くべきは執行部のおつむの程度だと思うのだが、いかがであろうか。


関係法規Masters担当 金谷康弘


柔道整復師、かなや整骨院院長

専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。

柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。

医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。

柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる

現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。


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