「またかよ」という話である。
「週刊文春」2018年8月30日号の「マッサージはこんなにあぶない」という記事にある整形外科医師のコメントがこんな風になっている。
「大半の人が誤解していますが、接骨院・整骨院はマッサージを行うところでも、全身の調子を整える場所でもありません。業務範囲は外傷性の骨折や脱臼に対する応急手当、捻挫、打撲、挫傷に対する手当です。慢性疾患に対してマッサージを行うことは業務範囲を逸脱した行為なのです。」
週刊文春
「業務範囲は」とだけあるけれど、直前のセンテンスの主語が「接骨院・整骨院」だからこれは「柔道整復師の業務範囲」のことであろうと推察される。
柔道整復師法にも載っていない柔道整復師の業務範囲がいつの間にか「脱臼、骨折、打撲、捻挫(等に対する施術)」になってしまっていて、整形外科の医師やはり師・きゅう師、更には無資格のカイロ整体までが柔道整復師を非難する際の決まり文句になっている件について考察してみる。
まず、柔道整復師が使う教科書である。
こいつがそもそもの元凶なのですよ。
業務範囲について「柔道整復学・理論編 改訂第5版」にも「関係法規 改訂第2版」にも厚生省(当時)健康政策局医事課の見解として「柔道整復師の業務は、脱臼、骨折、打撲、捻挫に対してその回復を図る施術を業として行うものである」という文言があり(出典は1990年現行法の制定に合わせて出版された逐条解説)、これが柔道整復師の業務範囲の根拠ということになっている。
ちなみに教科書では「脱臼、骨折、打撲、捻挫等」と「等」の文字があるがオリジナルの逐条解説では「等」の文字は存在しない。
「挫傷」という現在盛んに使われている傷病名の存在が執筆者の頭をよぎったのであろうか。
教科書の記載にあってすらこういうズルをする体質が、柔道整復師が根本的に学問を理解できていない証左になるかと思うのであるがいかがであろうか。
閑話休題。
「柔道整復師って何する人?」と聞かれたときに説明するのであればこれで正解であろう。
なぜならば世の柔道整復師のほとんどが療養費(健康保険)を扱っており、療養費の支給対象は急性、外傷性の脱臼、骨折、打撲、捻挫なのであるから。
だから大半の柔道整復師の業務はこれらの傷病に対する施術であるというのは間違いではない。
ただし、これらの傷病に対する施術のみが柔道整復師の業務範囲であるという考えは誤りである。
「業務範囲」というのはそもそも「やっていい行為」のことである。
たとえば柔道整復師に対して発出された通達の類でも柔道整復師の業務の範囲を超える、とされる行為は「止血剤や強心剤の注射」とか「診療の補助としての超音波検査」とか、医師法とか診療放射線技師法に抵触するのでやってはいけない行為のことを指している。
ところが先にあげた「柔道整復学 理論編」の「評価」の項目を見てみると「初期評価」の項目に「まず業務範囲か否かを判断する」という記述があり、「中間評価」の項目にも「場合によっては、この段階(中間評価)でも業務範囲か否かの判断が必要なことがある。」とある。
笑ってはいけない。
中間評価の段階まで業務範囲を逸脱していれば、これは間違いなく柔道整復師法違反で逮捕である。
「自分の手に負える程度の傷病か」「療養費の支給対象か」こういったことを何も考えずに「業務範囲」の一言で表現してきた結果、こういうむちゃくちゃな教科書が出来上がってきたものと思料する。
そうしてその「業務範囲」という語のあいまいな使い方が逆手にとられて柔道整復師を攻撃する材料として使われてきたのである。
『もうそろそろ「柔道整復師の業務範囲」についてちゃんと認識してくれない?②』に続く
関係法規Masters担当 金谷康弘
柔道整復師、かなや整骨院院長
専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。
柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。
医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。
柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる
現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。