振替請求のいいサンプルはないかな、と思っていたらちゃんと出てきた。
こういうネタには事欠かん業界であるね。
引用はここから。
無資格者が柔道整復の施術 容疑で整骨院経営者ら逮捕 /松戸
無資格者に柔道整復の施術をさせ療養費をだまし取ったなどとして、県警生活経済課と松戸署は11日、柔道整復師法違反(業務の禁止)と詐欺の疑いで、「×××整骨院秋山駅前院」を経営する元競輪選手の柔道整復師、A容疑者(52)ら3人を逮捕した。
ほかに逮捕したのは柔道整復師、B容疑者と整骨院従業員、C容疑者(41)。
逮捕容疑は共謀し、同整骨院で今年1月9〜16日、C容疑者が柔道整復師の免許がないにもかかわらず、40〜60代男女3人に計4回にわたり施術。B容疑者が施術したように装って療養費を不正に請求し、全国健康保険協会千葉支部から4440円をだまし取ったとされる。
同課によると、3人は容疑を認めている。A容疑者が2015年6〜7月ごろ、資格取得の専門学校で知り合ったC容疑者を誘い「免許を持った人が来るまで施術をして」などと指示。「違法なことは分かっていたが(C容疑者が)施術の勉強をしていたのでいいだろうと思った」と供述している。
B容疑者が休みの時などにC容疑者が施術していた。同課は、15年10月から17年5月までに、C容疑者が延べ約7400人に施術し、A容疑者が療養費約1180万円を不正に請求していたとみて裏付けを進める。
健康被害は確認されていない。昨年7月に損害保険会社から情報提供があり、捜査していた。
07月12日 11:55千葉日報
引用ここまで。
前回の記事に当てはめると
Aが開設者兼施術管理者、Bが業務に従事する柔道整復師ということになる。
柔道整復師の資格を持たないCが施術を行ったものを「柔道整復師Bが施術を行った」と偽って保険請求(療養費の受領委任)を行ったのが施術管理者のA。
Bに勤務実態が無ければいわゆる「免許の貸し借り」とか「名義貸し」とかになる。
まあ、よくあるパターンの不正ですよ。
ただ、今回注目するべきは無資格で施術を行った「整骨院従業員」のC。
普通、療養費の不正請求で逮捕、というケースでは詐欺罪が適用される。
まあ、柔道整復師でない人間の施術を柔道整復師によるものと偽って保険請求をしたのだからそうなるのは当然。
ただ、Cの逮捕容疑がもうひとつ、「柔道整復師法違反(業務の禁止)」であるところが目を引く。
ちょっと復習をしておくと、柔道整復師法第15条に「医師である場合を除き、柔道整復師でなければ業として柔道整復を行つてはならない。」とあり、「業務の禁止」という見出しがつけられている。
柔道整復師の資格を持たない者が柔道整復師の業務を行ってはいけませんよ、という至極当たり前のルールなのだけれど、実はこれが遵守されていないことは整骨院関係者ならだれでも知っている。
整骨院の中には養成校の学生やら、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師などのほかの資格者やらに施術させて、それを柔道整復師の施術として振替請求しているところがいまでも普通にある。
かつては柔道整復師の養成学校への入学は非常に難しかった。
なんせ柔道整復師というのが取得に2年しかかからないのに医師と同じように健康保険を取り扱うことができる、という大変おいしい資格だった。
しかも養成校が全国に14校しかなかったもので、入学するためには学校関係者のコネか紹介が無ければほとんど不可能であった。
柔道整復師になるためにはまず、どこかの整骨院に弟子入りし、そこの院長の伝手で学校関係者とのコネを得る。
相当の金額の裏金を学校関係者(と紹介者もお相伴にあずかることが多かった)に積んで養成校に入学した後は、紹介者の経営する整骨院で「助手」という名目でタダ働きを強いられることが多かった。
「助手」の中身は、といえば無資格での施術である。
養成校の学生は午前中に施術所で「助手」として働き、施術所の昼休みに学校へ行き、学校が終わったらまた施術所で「助手」をする、というパターンで生活していた。
現在でも柔道整復師の養成学校の授業時間が午後1時から4時というヘンテコな時間帯になっているのはこのパターンを踏襲しているからである。
時は流れ、養成校の数は増えて、かつてのようなコネ入学をしなくてもだれでも柔道整復師の養成校に入学できる時代になった。
誠に喜ばしいことではある。
ところが難儀なことに「施術所で養成校の学生を使って無資格で施術をさせる」という悪しき習慣だけはいまだ業界に残っている。
施術所内で「助手」にできることは実はものすごく限られている。
たとえば低周波治療器の導子のセットとかホットパックを患部に当てることも、柔道整復師以外には許されていない。
療養費の内訳に「電療」とか「罨法」とかあるでしょ?
療養費は柔道整復師の施術に対して支払われるのだけれど、電療も罨法も当然のことながら柔道整復師が行わなければ柔道整復ではありえない。
それから助手が手技を(前座的な感じで)行ったとしても、そのあと柔道整復師が施術を行えば問題ない、という不思議な都市伝説があるのだけど、施術所の構造設備基準に「6・6平方メートル以上の専用の施術室」てあるよね?
「専用の」というのは当然柔道整復専用。
だからどんな名目であっても柔道整復の資格を持たない助手が施術所内で患者さんを触ることなどありえない、のですよ。
柔道整復療養費の単価が医業に比べて格安である故か、保険者は多少のおかしなことには目をつぶってきたふしがある。
例えば大阪市では国保と27老人は待期期間なしに電療と罨法が算定できた。生保の患者さんには「3か月通院したら1か月は間を開けてね」という指導を行う自治体もあった。
おそらくは「助手」に関しても似たような暗黙の了解が業界と保険者との間にあったのかもしれない。
ただし、療養費の額が施術所の増加に伴って看過できないほどになってきた現在、どこの保険者も建前に徹したシビアな対応をとるようになってきたのはご承知のとおりである。
助手に関しても話は同様であろう。
平成25年4月24日保発第0424第2号で、(管理柔道整復師)は施術所内の見やすい場所に、(管理柔道整復師)及び勤務する柔道整復師の氏名を掲示すること、となっているのも助手(と、鍼灸その他の資格者)の施術を黙認しませんよ、という意思表示が見て取れる。
そうして今回の逮捕である。
柔道整復師法15条違反での逮捕、というのはなかなか衝撃的なことである。
不正請求を行う施術所の開設者がどうなろうと知ったことではないが、学校現場にも身を置くものとしては何も知らずに「助手」として勤務している養成校の学生たちが案じられる。
念のために申し添えるのだけれど、柔道整復師法に違反して罰金以上の刑に処せられると、柔道整復師免許の欠格事由というのに引っかかる。
そうなると柔道整復師国家試験に合格していても免許が与えられないことがある(柔道整復師法第8条1項)のだけど、ちゃんと認識してるんだろうか?
養成校の紹介で助手のアルバイトしてる学生も多いと思うんだけど、案外学校もそのあたりをわかってないかもしれないよ?
関係法規Masters担当 金谷康弘
柔道整復師、かなや整骨院院長
専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。
柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。
医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。
柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる
現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。