『もうそろそろ「柔道整復師の業務範囲」についてちゃんと認識してくれない?①』からの続き。
これは以前の記事にも引用した通達。
昭和41年9月26日医事第108号
「医行為又は医業類似行為(広義とする。)であるか否かはその目的又は対象の如何によるものではなく、その方法又は作用の如何によるものと解すべきである。」
昭和41年9月26日医事第108号
この通達の意味について復習してみる。
たとえば柔道整復師が肩関節脱臼の患部に対してコッヘル法を行った。
これはOK。
それならいわゆる五十肩の患部にコッヘル法を行ったら?
あるいは何の症状もない肩関節に対して行ったら?
コッヘル法は柔道整復師に許された施術の術式なのだから、対象となる傷病が脱臼だろうとなかろうと、それは柔道整復師の業務の範囲なのである、というのがこの通達の意味するところであるのはご理解いただけるであろうか。
「柔道整復師の業務範囲は、脱臼、骨折、打撲、捻挫に対する施術である」と主張する人々がしばしば論拠にするのが柔道整復師法成立時の国会答弁である。
詳細は端折るが従来、柔道整復師はあん摩マッサージ指圧師やはり師、きゅう師と同じ法律で規制されていたのだけれど昭和45年に「柔道整復師法」という単独法が成立した。
その際の国会議事録から以下、引用ね。
第063回国会 衆議院社会労働委員会 (昭和45年3月12日)
柔道整復技術は、日本において、長い伝統のもとに発達してきた非観血的手打整復療法として、医療の分野をにない、西洋医学の導入研究と相まち、現代においても必要欠くべからざる治療技術として国民大衆の支持を受けているのであります。
特に、政府管掌健康保険等については、施行者団体と各種保険者との間に施術協定が締結され、社会保険の給付として広範に行なわれるようになってきているのであります。
かように、柔道整復師の場合は、その沿革等において、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等とは異なる独自の存在を有しており、また、その施術の対象も、もっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など新鮮なる負傷に限られているのであります。
しかし、現状におきましては、柔道整復師も同じ医業類似行為の範疇にあるということで、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律によって規制されているのであります。
本案は、以上のような柔道整復術の実態にかんがみ、現行のあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律から柔道整復師に関する規定をはずして、柔道整復師についての単独法を制定し、柔道整復業の発展をはかろうとするものであります。
第063回国会 衆議院社会労働委員会 (昭和45年3月12日)
引用ここまで。
もうちょっとわかりやすい言い方に改めると、柔道整復法をあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律から分離する理由としては、
- 伝統的な接骨術に西洋医学をブレンドした医療の一分野である(から東洋医学ベースの施術である、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうとは異なる。)
- 健康保険の取り扱いができる、まあ言ってみれば医療機関に準ずる存在である。
- このように柔道整復は東洋医学とは異なる独自の歴史を持っていて、また施術の対象ももっぱら骨折、脱臼の非観血的整復を含めた打撲、捻挫など新鮮な負傷に限られる。
ということになるであろうか。
それで、「その施術の対象」が「もっぱら骨折、脱臼の非観血的整復を含めた打撲、捻挫など新鮮なる負傷に限られている」という文言をもって柔道整復師の業務範囲を「脱臼、骨折、打撲、捻挫(とそれから挫傷ですかね)に対する施術」である、とする理屈は実は正しくないのである。
理由は「もっぱら」。
法律関係やら役人の答弁でこの語が使われる時は100パーセントを意味しない。
ちゃんとした定義はないみたいだけれど今検索してみると「8割程度」を指すというのが一般的な解釈である。
つまり、「柔道整復師の施術の対象は大体8割がた新鮮外傷だから、あはき法から分離したほうがいいと思います」ということであり、それ以外の傷病に対して柔道整復師が施術を行うことが法的に禁じられている、という意味ではなさそうである。
先ほど見た通り大半の柔道整復師は療養費を取り扱っており、療養費の支給対象は脱臼、骨折、打撲、捻挫、挫傷であるから柔道整復師の施術の対象が「もっぱら」これらの傷病であることは当時も今も変わっていない。
誤解のないように書いておくのだけれど、「柔道整復師の施術の対象」と「療養費の支給対象」はイコールではない。
私事になるが、筆者は臨床では「もっぱら」いわゆる慢性の症状を呈するクライアントに施術を行っている。
療養費の支給対象でないことは明らかなので健康保険は使っていないが、柔道整復師である筆者が行う行為は紛れもなく柔道整復なのである。
柔道整復師の施術の対象となる傷病名については以前、「月間手技療法」に投稿したことがあり詳細はそちらをご覧いただけると嬉しいのであるが、かいつまんで書いておくと診断権を持たない(傷病名を自分で決定できない)柔道整復師に対して施術の対象になる傷病名を決めておいても法的には意味をなさない。
※「月間手技療法」の記事については後日掲載します。
なんとなればある傷病を「これは捻挫である」と患者に告げることは医師法に違反する。
そうして「これは捻挫ではない」と告げることも陰性診断といって、やっぱり診断行為に該当してしまうからである。
療養費を請求する際の柔道整復師による傷病名の判断(診断でも鑑別でもないですよ)の基準は「さっき足をくじいた」という患者の申告である。
ぶっちゃけた言い方をすれば「患者が捻挫したと言ってるから捻挫」であると判断して傷病名をつけているに過ぎない。
療養費の支給対象は「急性、外傷性」に限ると保険者がしつこくアナウンスしているのはこの辺の事情によるものと思料する。
「慢性疾患にマッサージを行うこと」は柔道整復師の業務範囲を逸脱した行為である、という冒頭にあげた整形外科医の指摘は正しい。
ただしそれは「マッサージを行うこと」があん摩マッサージ指圧師の業務独占にバッティングするからであって、慢性疾患(かどうか柔道整復師は判断できないのだけど)に対して施術を行ったからではない。
もちろん療養費の支給対象ではないので保険請求はできないけれど。
関係法規Masters担当 金谷康弘
柔道整復師、かなや整骨院院長
専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。
柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。
医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。
柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる
現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。