医業類似行為という言葉の定義については、従来多少の混乱が見られた。
平成2年、当時の厚生省健康政策局医事課の定義に以下のようなものがある。
「医業類似行為には広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為とに分けられる。広義の医業類似行為は、狭義の医業類似行為とあん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復など法律により公認されたものとをあわせた概念である。」
逐条解説 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律 柔道整復師法 ぎょうせい1990
「狭義の医業類似行為」とは、手技やら温熱やらを無資格で行う人々の施術を指すことになる。
あはき法第12条(医業類似行為の禁止)で禁じられている行為は当然こちらを指す。
それではあはき柔整は、広義には医業類似行為なのか?
柔道整復やあん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの施術が医業類似行為である、と言われるのを嫌う人はギョーカイに結構存在していて、ようは「自分たちの資格や職業を無資格者と一緒にされてたまるか」という意識があるものと思われる。
ただ、行政の方はそんなことは気にしていないようで昭和58年3月4日第98回国会手技院予算委員会第四分科会で厚生省医務局長大谷藤郎氏はこんなのんきなことを言っている。
「(略)医業類似行為というものにつきましての定義というものははっきりいたしておりませんので、そのほかにいわゆる最高裁の判決によりますところの無害のものもそれに含まれるのかどうかという点につきましては、必ずしも定義がはっきりしているというふうには、わからないと申しましょうかはっきり定義がされておらないわけでございます。」
時間が前後するけど仙台高等裁判所の昭和29年6月29日の判決では「医業類似行為」の定義を「疾病の治療又は保健の目的でする行為であって医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの」と判示している。
それから例の、昭和35年の最高裁判決を受けての厚生省医務局長通知(医発第247号の1)に「この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう、および柔道整復の業に関しては判断していないものである」とある。
仙台高裁の判決は35年最高裁とおんなじ事件についての裁判だから医業類似行為の定義が同じになるのは当然なのかもしれないけれど、判例と冒頭にあげた厚生省健康政策局医事課の見解とではあはき柔整が医業類似行為に含まれるか否かがまるっきり逆になっている。
医業類似行為の「定義がはっきりしない」ままにテキトーに受け答えしているうちに収拾がつかなくなってしまったんだろうか。
それを気色悪く思う人はちゃんといるわけで、国民民主党の櫻井充氏は令和元年5月23日付であはき法12条で禁じられている「医業類似行為」についての政府の見解を求めて質問趣意書を提出した。
5月31日付の政府からの答弁書には、
「(略)厚生労働省としては、「医業類似行為」とは医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しており、それには、あん摩、マッサージ及び指圧、はり、きゅう、並びに柔道整復のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれると考えているところである。」
とある。
鍼灸柔整新聞第1099号(令和元年6月25日)には、この答弁を受ける形で「(略)あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復が他の療術行為同様、医業類似行為に含まれるとの見解が示された。」と、何やら悲観的な論調で書かれている。
でもね、「あはき柔整を無資格者と一緒にされてたまるか」ということであればちょっと違うと思う。
医業類似行為という言葉の響きに対する好き嫌いは置いといて、これは結構画期的な答弁ですよ。
医業類似行為に含まれる、と明示されたあはき柔整はもちろん業務独占しているから有資格者にしか許されていない。
それ以外の(無資格の)手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれの「ある」ものを業として行うことができる人って日本に何人存在するんだっけ?
現行のあはき法が制定されたとき、法的に医業類似行為が禁止された。
それまでは都道府県知事に届け出ることで無資格の医業類似行為(=療術行為)を行うことができて、多数の業者が存在していた。
そういう人については救済措置として終生業務を行うことが認められたのだけど、なんせそれは昭和39年の話だからね。
今から55年前。
その当時二十歳だった人でも七十代後半。
そうしてもちろん新規の開業は認められない。
こういう言い方は何だけど、そのとき救済されて現在適法に営業している医業類似行為者は現在でもごくわずかだろう。
狭義の医業類似行為を行うものが早晩消滅するのであれば、医業類似行為という言葉の定義が大きく変わるのは理解いただけるだろうか。
今回の政府答弁書で(そうと意識したかどうかは不明だけれど)医業類似行為から無資格カイロ・整体(人体に有害の虞のないほうね)は実質上追放されることとなった。
結論として医業類似行為とはあはき柔整の総称であって無資格者の施術は含まないことが今回の政府答弁で明らかになった。
でも、やっぱり「類似」って言われても嬉しくないか。
関係法規Masters担当 金谷康弘
柔道整復師、かなや整骨院院長
専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。
柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。
医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。
柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる
現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。
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