立ち入り検査という私刑(リンチ)
先日フェイスブックで友達になっている同業者が「チラシの内容を同業者が保健所に密告して、保健所が立ち入り検査に来た」といった内容を投稿していた。
なにかの誤解では?と思い確認したのだけれど保健所から事前に提示された検査事項の中に「施術所の広告の確認」という項目がちゃんと存在するという。
でもね、それって法的にはどうなの?って話ですよ。
柔道整復師法21条に
(施術所所在地の、以下同じ)都道府県知事は(中略)その職員に、施術所に立ち入り、その構造設備若しくは(中略)衛生上の措置の実施状況を検査させることができる。
柔道整復師法第21条
とあってこれが都道府県知事の行う立ち入り検査。
検査の対象になるのは施術所の構造設備と衛生上の措置。
「広告」の文言は見当たらない。
そうして立ち入り検査の結果、施術所の構造設備と衛生上の措置に不備があれば
その開設者に対し、期間を定めて、当該施術所の全部若しくは一部の使用を制限し、若しくは禁止し、又は構造設備を改善し、若しくは当該衛生上の措置を講ずべき旨を命ずることができる。
柔道整復師法第22条
もうちょっと簡単に言い直せば
「立ち入り検査で不備があれば構造設備を整えて衛生上の措置を講じろ。それまで施術所を使うことは相成らん。」
という命令を施術所開設者に対して都道府県知事は命令できる、ということで、つまりこれは都道府県知事による行政処分である。
さて、広告についてはどうか。
柔道整復師法第24条の「広告の制限」に違反した場合、柔道整復師法第30条の規定により、30万円以下の罰金に処せられる。
つまりこちらは刑事罰。
広告の制限に違反することは犯罪行為、ということになる。
もし都道府県知事による施術所への立ち入り検査で広告の制限に関して「検査」が行われていたとすればこれは犯罪捜査。
それで、立ち入り検査に話を戻すのだけれど、柔道整復師法21条の3に
(都道府県知事による)立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない
柔道整復師法21条の3
とある。
よって
都道府県知事が行う施術所への立入検査は構造設備と衛生上の措置に限って行われるべきであり、犯罪捜査に該当するので広告(看板も含む)に関する立入検査は都道府県知事の権限を越えるものである
、と筆者は考えるのであるがいかがだろうか。
しかも、である。
おそらく世間に柔道整復師法24条(と、平成11年3月29日 厚生省告示第70号)に違反していない施術所の広告は存在しない。
だってふつうに見られる「各種保険取り扱い」も「整骨院」の名称もみんなダメなんですよ。
ということは行政が行う立入検査の対象になる施術所は、まったく恣意的に選ばれていることになる。
これは「ルールに違反したものには法的な手続きを無視して罰してもかまわない」
そう、行政による私刑(リンチ)ですよ。
そうして誰が私刑の対象になるのかわからない。
なんせそれは、お役人様の気分次第でどうにでもなることに(いつのまにか)なってしまっているから。
これは行政による明確なルール違反ですよ。
数年前にN県K市が突然「施術所の監督権を県から移譲された」とか言い出して施術所の看板や広告にクレームをつけ始めた時に、筆者は「立入検査で看板にクレームをつけるのは犯罪捜査に該当するのでは?」という質問のメールを担当者あてに送ったことがある。
先方はこちらの言い分が正しいことを認めたうえで「違法であることの放置は立場上できません」みたいなわけのわからん返事を返してきた。
犯罪捜査をやめるつもりはないようである。
そっちのほうが違法だったりするんだけどな。
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K市御中
はじめまして。私は大阪市で柔道整復の施術所を開設するかたわら専門学校で関係法規という科目を教えております。
9月12日付毎日新聞夕刊に貴市の施術所の違法看板に対する対応が載っておりました。
柔道整復師法に違反する施術所の看板について市が独自に調査、指導するという内容でしたが法的に釈然としないところがあり貴市の見解についてお伺いする次第です。
ご多用中恐縮ですがなにとぞご教示くださるようお願いいたします。
1、行政による施術所への立ち入り検査は「構造設備若しくは(中略)衛生上の措置の実施状況」について行われる旨柔道整復師法21条に規定があります。
今回の貴市の看板に対する指導はこの立入検査の一環として行われたものでしょうか。2、立入検査の結果、不備があれば都道府県知事(K市市長?)は構造設備については改善命令、衛生上の措置については衛生上の措置を講ずべき旨の命令を命じることができ期間を定めて施術所の使用制限、使用禁止を命ずることができる旨、柔道整復師法22条に記されています。
これは行政処分、ということになるかと思います。一方、看板やチラシについては柔道整復師法第24条に規定があります。
こちらに違反した場合は柔道整復師法第30条により30万円以下の罰金、つまり刑事罰が定められています。施術所への立ち入り検査に話を戻せば柔道整復師法21条第3項に「(都道府県知事による)立入検査の権限は犯罪捜査のため認められたものと解してはならない。」とわざわざ明記されているのはこのあたりの権限についての解釈を示したものと愚案いたします。
そうであってみれば知事(K市長)が施術所の看板その他の指導を行うというのは法的な根拠に乏しいように考えるのですが貴市の見解をお聞かせいただけますでしょうか。
3、鍼灸柔整新聞9月25日号の記事に貴市が施術所あてに出された「権限移譲に伴う施術所の適正化について」についての記事があります。
それによりますと「各種保険」といった表現は不可、とか鍼灸整骨院の名称は不可、とかいう指導がなされているようです。
法令を厳格に適応されているものと思料します。この通達は柔道整復の施術所のみならず、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの施術所にも適用されるものでしょうか。
そうであるのなら「手技療院 ○○」などという名称をかかげておられるあはきの施術所があったとして、こういう施術所の名称の可否について貴市の見解をお尋ねします。
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はじめまして。この度はK市の政策についてご興味をお示しいただきありがとうございます。
さて、ご質問の3点についてご回答させていただきます。
まず、1点目と2点目は経緯を含めて総合的にご回答させていただきます。
今回の看板の指導については立入検査の一環ではございません。
K市では平成25年度の権限移譲により、N県より関係書類及びデータの引継ぎを受け、これに基づき市内の登録施術所の現状調査を実施いたしました。
この結果、開業中になっている施術所が151件あるにも関わらず、実際には86件が確認できたに過ぎず、その他は居所不明でありました。
この調査の際、違法看板を多数確認いたしました。後日、この調査内容について、県内の柔整師会、針灸師、マッサージ師会の代表をお呼びして実情の報告と橿原市としての方針について理解を求め了承をいただきました。
このことに基づき、通知を行い後日、巡回指導をさせていただくことといたしました。
指導といいましても、ご指摘のとおり「行政処分」のない状況での「行政指導」という表現は沿わないと思われますので「指摘・注意」と表現した方が正確かもわかりません。
しかしながら、違法であることの放置は立場上できませんので、再々の注意を無視された場合は刑事告発も可能性としてはありえます。
3点目ですが、各種保険取り扱いや交通事故については記載できない事項となっておりますので指摘させていただいておりますが、針灸整骨院という表現については明確に不可であると国の見解も出ておりません。
ただし、根拠法令が別々に存在する制度であり、勿論、登録も別々であるならばそれぞれが独立した名称であるべきであるという考えから、お願いさせていただいております。
今回移譲を受けた内容は柔整とあはきの2つですので、今回の橿原市の政策はあん摩マッサージにも適用され同様に対応させていただいております。
例題となっております「手技療院」という表現が明確に違法であるかどうかは針灸整骨院などの2つの制度にまたがる問題ではなく、医療と混同してしまわないか?名前として紛らわしくないか?ということであり、直ちに可否見解は難しいと思われます。
どちらの内容についても、既存の施術所の「屋号」については、出来るだけ緩やかにK市としての方針をご理解していただきながら進めて参りたいと思っております。
K市役所 保険医療課
◯ ◯
TEL (内 )
関係法規Masters担当 金谷康弘
柔道整復師、かなや整骨院院長
専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。
柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。
医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。
柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる
現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。
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