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柔道整復師に「遠隔施術」は可能か?(業務独占と名称独占)

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「遠隔施術」とか「遠隔治療」とか言っても、離れたところにいる患者に気のパワーを送ってどうのこうのという話ではない。

先日タクシーに乗ったらAGA治療のパンフレットが置かれていた。
風呂上がりに自分の頭部を鏡で見て心寒くなることの増えた筆者にとってはもちろん興味津々である。
持ち帰って子細に眺めてみるとこんな文言が目についた。

スマホで簡単、遠隔診療はじめました

出典:https://www.agaskin.net/

どういうことか読んでみると、初回のみ通院治療して診断を受ければあとはそのクリニックのアプリを通じて沿革診察を行い、薬の処方やらクレジット決済までオンラインで行うことができるらしい。
つまりスマホの通話(と言っていいのかな)で医師の診察を受けることができるということである。

離島や遠隔地でのオンライン診療の実証実験は、時々テレビなどで放送されていたのを筆者も見た記憶がある。

2018年からオンライン診療は診療報酬として正式に認められることとなったが、通院や在宅診療の補完という意味合いが強いという。
ちなみにパンフレットを発行しているクリニックは健康保険を取り扱ってはいないようである。

まあ、昔から「電話等再診」といって治療上の指示とか相談なんかを電話で行うことは医師には認められてきたのだけれどね。

さて本題である。
おんなじことを柔道整復師が行うことは可能か?
つまり、在宅の患者に対して柔道整復師が何らかのアドバイスをして、それが「施術」として認められるだろうか?

これには実例がある。
ちょっと以前のこと、自賠責で通院日数の水増し請求を行った柔道整復師が逮捕された。
その際の弁明が「在宅の患者に電話でアドバイスを行ったから水増し請求ではない」

電話での相談にクライアントが謝礼を支払うかどうかの問題でなく、柔道整復師の業務として「電話による相談」が認められているかどうかといえば答えは簡単、Noである。
理由は、と言えば柔道整復師は名称を独占していないから。

業務独占とか名称独占とか、関係法規の授業で出てきたでしょ?ちょっと復習してみましょうか。
モデルケースとしては業務も名称も独占している医師が適当なのでそちらで説明してみよう。

医師法17条に「医師でなければ、医業をなしてはならない。」とある。
ブラックジャックがしばしば警察の取り調べを受ける理由がこれ。
日本で医業を行おうと思ったら医師国家試験に合格して医師免許を受けなければならない。
ブラックジャックは医学部は卒業したけれど医師免許を持たないから手術とか投薬を行うと無資格医業で3年以下の懲役、または100万円以下の罰金に処せられる。
これが医師の業務独占。

それから医師法18条に「医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。」とあり、これを医師の名称独占という。
医師を詐称する結婚詐欺なんかはこっちのパターンね。
ただし、医師法18条が存在するのはもちろん結婚詐欺防止のためではない。

たとえば「○○という病気に××が効く」という話。
これを飲み屋の親父さんが酔っ払い相手にするのと、みのもんたがテレビ番組でするのと、それから医師が同じ話をするのでは法的な意味が違う。

医師の言葉は「診断」であったり「保健指導」であったり「投薬の指示」であったりするわけで、これらの行為は医師でなければ行うことができない「医行為」なのですよ。
だから医師としての発言は医師の業務に含まれるわけで、医師でない者が「オレは医師だ」と称して発言することは病気の人に誤った判断をさせる危険性のあるれっきとした犯罪行為なのである。

医師の業務独占と名称独占は表裏一体。
医業ではなく歯科医業かいわいを見ていると事情はもっとはっきりしていて、歯科医師と歯科衛生士(歯科診療の補助のほかに歯科保健指導も業務に含まれる)は業務と名称を独占しているが、直接患者さんと接することのない歯科技工士は業務のみの独占となっている。

柔道整復師は患者さんに施術を行ってはいるものの、診断もそれに伴う保険指導も投薬の指示も行うことはできない。
残念ながら柔道整復師の言葉はそれだけの価値を持っていないのよ。
仮に本当に電話で的確なアドバイスを行ったとしても、残念ながらそれは柔道整復業務とは認められないことになる。
もちろん遠隔でその場にいないクライアントに「気のパワーを送りました」なんてのも駄目だからね。

関係法規Masters担当 金谷康弘


柔道整復師、かなや整骨院院長

専科教員として専門学校で関係法規、柔道整復理論を担当。

柔道整復師とはどんな職業なのかをあれこれ考えていたら、業界に馴染めないまま28年経ってしまう。

医師の代替ではなく現代医療を補完する柔道整復術を目指し、「外傷を診ない」「療養費を取り扱わない」整骨院を開設。

柔道整復師が自分の職業を自分の子供に説明できるように願いつつ、柔道整復師法についてのあれこれを発信中。
クラニオセイクラルな日々-あたまをさわれば幸せになる

現在、一般社団法人日本頭蓋仙骨療法協会代表理事。


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